
人は、自分の知らない世界を否定したがる。
大学に入って間もない頃、
俺は学歴コンプレックスを拗らせていた。
親の金の力で偏差値の高い中学・高校にぶち込まれ
周囲が早慶に進むエリートだらけの中、
ただ1人Fラン大学に入った自分。
そりゃコンプレックスが芽生えないはずがない。
こいつらはバカだ。
こいつらは人生の負け組だ。
俺はこいつらとは違う。
今思うとバカはお前だと言いたくなるが、
大学入学してすぐは学歴コンプレックスで心が荒み、同じFランに通う同級生達を常に見下して生きていた。
とはいえ、心の中では見下しつつも、
大学で1人ぼっちというのは避けたく、
最低限のコミュニケーションは取っていた。
心の中ではバカにしつつも、
表ではぼっちにならないために周囲の顔色を伺っていたと思うと吐き気がするが、
ビジネスに出会う前の俺はそんなゴミみたいな人間だった。
大学生の会話の99%は
・単位
・酒
・バイト
・彼女
・サークル
の5つで構成されている。
大学に入り周囲に馴染みたいと思うなら、
テキトーにこの辺の話を出していればそれで良い。
逆に言えば、普通の大学生ならこれ以外に話すことなど特にない。
あの授業が楽だとか、
誰と誰がヤったとか、
酒何杯飲んで吐いたとか、
そんな下らない話をする以外やることなどない。
大学生なんて所詮はそんなもんで、
そのまま下らない大人になって下らない結婚して下らない人生を歩んで、
ああ、下らない人生だったなと思いながら死ぬ。
それが「普通」だと思っていたし、その普通に抗おうなんて思いもしなかった。
下らない大学生活を続けて約半年、
高校時代の友人から
「クラブでイベントあるから来ない?」
とLINEがきた。
どうやら彼はクラブイベント関連のサークルに入ったようで
1年で下っ端の彼は人を集めるため色んな人に声をかけまくっているようだ。
(クラブか…行ったことないな…)
(流行りの音楽とかよくわからんのよな…)
(まあでも暇だし行ってみっか…)
特に乗り気にもならなかったが、
暇で他にやることもなく、
もしかしたら可愛い子に会えるかもしれない。
なんて幻想を抱いてイベントへ行ってみることにした。
「○○日渋谷待ち合わせね!」
「○○と○○もくるから!」
…なんと、どうやら他の友人達もくるらしい。
高校以来だから、久しぶりに会うのも楽しみだ。
1人じゃないと知った途端、急に気が楽になった。
一緒に回る友人がいるというだけで心強いったらありゃしない。
芋だった自分は知りうる最大限のおしゃれな服(今思うとクソダサい)を買って当日を待った。
………当日。
必死におしゃれを模索した芋大学生3人と、
誘ってくれた友人含め4人で渋谷で合流し、
そのままクラブイベントへと足を運んだ。
「お前先ナンパしろよ!」
「俺最低3人は持ち帰るわ」
「連絡先もらえなかった奴奢りな」
そんな調子に乗ったことを言っていた芋×3だったが、
クラブに入った途端その音圧と雰囲気に飲まれ放心状態。
(え、なんかみんなノリノリなんだけど…)
(ドリンクの列どれだろ…)
(女の子チャラくて怖すぎる…)
(とりまトイレいっとくか…)
そう、芋には刺激が強すぎたのだ。
ナンパするだの持ち帰るだのイキっていた奴らは一体どこへ…。
当然ナンパなどできるはずもなく、
芋3人でトイレ出てすぐの柱で固まっていると、
誘ってくれた友人が気にかけてくれたのか、
主催しているサークルがいる裏口へと案内してくれた。
「先輩!友達つれてきました~!」
サークルを主催している先輩達に紹介される芋×3。
初めは見た目のいかつい先輩達にビビり散らかしていたが、
「うちはこんなイベントやってて~」
「1年生は何人所属してて~」
と、優しくサークルの紹介をしてくれたので、
いつしか緊張もほぐれ目を見て会話をするだけの余裕が出てきた。
話を聞いていると、
主催は青〇学院大学の3年生だったが、
構成メンバーの大学はバラバラで、
特に下っ端集客要員は大学も男女も問わず大歓迎らしい。
イベントに1人連れてくると○○円。
サークルに1人勧誘できると○○円。
と、報酬もしっかり用意されており、
もはやサークルというより小さなイベント会社だ。
それを優秀な大学生が何人も集まって主催・運営している。
当時の俺にとってはそれが衝撃だった。
大学生なんて下らない話をしてるだけで、
テキトーに授業受けてテキトーに酒飲んでテキトーに就活する生き物だと思っていたのに、
この人たちは自分達で組織を作って自分達の力で金を稼いでいる。
下らない日々を過ごしていた自分にとって、
そんな彼らは輝いて見えた。
俺も彼らのようになりたいと、話を聞いた一瞬はそう思った。
…が、稼ぎの額を聞いた瞬間、俺の熱は消え去った。
「トップクラスになると月2~300万は稼げるよ」
「幹部クラスでも月10万は貰えるから、バイトくらいにはなるね」
…は?
トップが月2~300万?
今目の前にいるこいつら、月に200万以上稼いでんの…?
人は、自分の知らない世界を否定したがる。
(いやいや、大学生で月200万とか有り得ないっしょ…)
(絶対悪いことしてるじゃんこいつら…)
(何が仲間だよただの金儲けじゃん…)
バイトもせずサークルにも入らず、だらだらと日々を過ごし金もなくモテもしないクラブの雰囲気にビビり散らかしてる芋Fラン大学生の俺。
一方、目の前にいるのは学歴を手にして見た目もイケイケで月200万稼いでいるイベントサークルの主催。
耐えられなかった。
受け入れられなかった。
自分と2つしか年の変わらない同じ大学生が、
月に200万以上稼いでる?
それも見た目もイケイケで?
学歴もあって?
何か証拠を掴んだわけでもないのに悪いことしていると決めつけ、
優しく話かけてくれて尚且つ勧誘までしてくれたのに、
そこで頑張れば違った人生が待っていたかもしれないのに、
俺は下らないプライドとコンプレックスを拗らせまくり、
ぜってえ有り得ねえ…
悪いことして金儲けして何が楽しいんだ…
と心の中で彼らを悪と決めつけ、後はテキトーに楽しんでるフリをしてその場を去った。
人は、自分の知らない世界を否定したがる。
自分の知らない世界を否定しないと、
これまでの自分を否定することになるから。
大学生で月200万稼いでいる奴がいる。
そんなことを認めてしまっては、
だらだら生きてきたこれまでの自分がバカに見える。
だから認められない。
認めたくない。
人は、自分の知らない世界を否定したがる。
プライドとコンプレックスに支配された、愚かな生き物である。
…それから2年後、俺はビジネスを始め月収100万を超えた。
それを友人に話しても、
「へ~意識高いね」
「絶対怪しいことしてるでしょ」
とまるで相手にされなかった。
親にも起業すると言ってみた。
すると返ってきた言葉は
「そんなもん上手くいくわけない」
「とりあえず就職して社会人経験積みなさい」
だった。
年収1000万を超えたタイミングで報告をしてみたりもしたが、
「ずっと続くわけないから就職しなさい」
の一点張りだった。
人間、所詮はそんなもんだ。
自分の知らない世界で結果を出した人間を前にして
「凄い!」
「頑張って!」
「教えてください!」
となれる奴などほぼいない。
クラブイベントで月200万稼いでいる先輩達を前にして、
当時の俺も同じことを思った。
そこでプライドを捨て、
「凄いっす!」
「俺もここで頑張らせてください!」
と言えば良いだけなのに、それが言えなかった。
もちろん、必ずしも教えを乞うのが正しいとは限らない。
あの時サークルに入っていても、ただの下っ端としてこき使われて終わりだったかもしれない。
いくら頑張ったところで主催側に回ることはできなかったかもしれない。
でも、チャンスを前に背を向けるのとではまるで違う。
少なくとも、知らない世界を否定し続け未来の可能性を潰す行為にメリットなどない。
自分の知らない世界を知った時、それは人生におけるBIGチャンス。
月200万稼いでいる大学生に出会えるなんて、
当時の俺には二度とないチャンスだった。
プライドやコンプレックスは、人の可能性を殺す魔物だ。
他人の成功を否定し、そして同時に自分の成功への道をも閉ざす。
自分より凄い奴と出会って、悔しいと思うことは悪い事じゃない。
くっそおおおおおおおおおなんでこいつは俺よりこんなにも凄いんだよクソ野郎!!!!!!!
と思うまでは全く問題ない。
が、そこで否定したい気持ちをグッと堪え
「凄い」
「負けました」
「教えてください」
の3つが言えるかどうか。
たったそれだけで人生は好転する。
月収100万を超え一度友人に話し、
否定的な反応をされてから、
あまり他人に収入を言うことはなくなった。
逆に「全然儲かんなくてさ~」
と言っていた方が人間関係はうまくいく。
週5日8時間働いて月収30万の人間に、
「何もしなくても月300万入ってくるんだよね~」
なんて言って良いことなんてないのは猿でもわかる。
けれど、もし自分が逆の立場で、
「月収3000万自動で入ってくるんだよね~」
なんて人が目の前に表れたら
「凄いです!教えてください!」
と言える人間でありたい。
悔しいと思いつつ、
それを原動力にできる人間でありたい。
なぜなら、それが成功への一番の近道だから。
おわり。